初めて食べたサッカーをいかに美味しいと思わせるか – 初めてのVリーグ観戦より

好きなものは好きであり、楽しいものは楽しいから仕方がない

 「君はよくスタジアムに行くけど、サッカーの何が楽しいの?」と聞かれると答えられない。サッカーの何が楽しいか、ずばりこれだといった回答を持ち合わせていないのだ。一応、それなりの回答はある。「彫刻を眺めるように視点を変えながらいろんな角度から楽しめること」というのがそれだ。サッカー通同士で語り合う分にはそれで一向に構わない。しかしその質問を全くの素人にされたときにそのような抽象的な表現を用いても、変人扱いをされて終わるだけである。もしそういう場面に出くわしてしまったとき、私はこう答えるようにしている。「スタジアムに来れば分かるよ。」

 「来ればいい」と言ってついてきてくれるような人間だらけなら苦労はしない。食わず嫌いな子供にピーマンの絵を見せてその美味しさを教えても伝わらないように、サッカーもまた映像を流してプレゼンテーションしたところでスタジアムに足を運んでみようという気にさせることは難しいのが原因の一つであると私は思っている。サッカー観戦をしたことがない”サッカー食わず嫌い”の人にどうやってスタジアムに足を運んでもらって、リピーターにするかが日本サッカー界全体の課題となっている。

食わず嫌いにサッカーを食べさせる

 観客を増やすためにわれわれが抱えるテーマは2つある。1つは食わず嫌いにどうサッカーを食べさせるか(観戦未経験者に対するアプローチ)。2つは初めて食べたサッカーを美味いと思わせるか(一見の客をリピーターにする方法)。

 このうちの1つ目の問題に対しては強引にでも連れて行ってしまうのが最良な手段かもしれない。サッカーファンの人口が増えればネズミ講式に増えていくことを期待している。まるで何かの宗教団体のようだが、おそらく錯覚ではない。食わず嫌いにどうサッカーを食べさせるかについては以上。

 今回は2つ目の「初めて食べたサッカーをいかに美味しいと思わせるか」を1つの焦点にする。食わず嫌いに無理やりピーマンをねじ込んでも、それが青臭いままなのか、美味しく調理してあるかでは食べさせられた方も印象が変わる。我々は頑張って連れてきた友人に「楽しかった」と心から言ってもらわないとならない。この問題を解決する糸口を見つけるにはどうすればいいか。その解決方法として、観戦したことがない他の球技を題材にすることにした。

未知の空間に飛び込んでみればいい

 題材に選んだのはバレーボール。なぜバレーボールなのか。答えは簡単で、わが愛するヴェルディにバレーボールチームがあったからだ。ヴェルディのチームであれば応援する立場として見られる。サポーター視点を重視する私としてはこれ以上にない条件だ。今回は初のヴェルディ主催試合ということで再三にわたって観戦に来るよう言われていたこともあって、2日間のうちの2日目に顔を出してきた次第だ。

 会場となったのは東京ヴェルディのホームタウンである立川市の泉体育館。この泉体育館は多摩モノレール「泉体育館駅」の目の前にあり、アクセスには苦労しなかった。行われたのはVリーグの2部であるVチャレンジリーグ。試合は「東京ヴェルディvsつくばユナイテッドSunGAIA
」と「ジェイテクトSTINGSvs警視庁」が行われた。

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 以上の経緯でサッカーとバレーボールを比較してやろうと勇んで会場に行ったのだが、結論を言ってしまえばそれは果てしなく愚行だった。それもそのはずでそもそもサッカーとバレーボールは性質が全く異なる。その1つ1つをまとめていったところで、しばし起こる野球対サッカーの論争に等しく生産性のない対比だけが羅列されていた。照らし合わせる中で1つ見えたのは違いではなく共通点だった。それはサポーターの存在だ。

サポーターの声援が私を試合の輪に導いた

 バレーといえば小学校から高校まで満遍なく嗜んできたスポーツのひとつ。ところが体育の授業や球技大会ではかなりゆるいルールで行われていたから細かいルールが分からない。試合が始まったところで私自身に何が起きたかといえば、盛り上がりどころが分からなくなるという状況に陥った。そのときに抱いた感情は孤独感とか疎外感に似ていた。

 孤独な状況から会場の輪の中に誘導してくれたのがサポーターだった。彼らはポイントが入れば大きな歓声をあげて、ファインプレーで大盛り上がりする。そして惜しいプレーには惜しみない拍手と激励を送った。タイムアウトには聞きなれたチャントを歌って高ぶらせてくれた。彼らがこうしてくれることで私は気持ちよく手拍子を合わせて、感情を共有することが出来た。プレーに対して安心して反応できることがこれほど気持ちいいことだったとは。私は会場と一体になった。特にバレーボールは得点が入りやすい球技である。一喜一憂はかなり分かりやすく行うことができた。

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奥深さゆえの欠点

 これをサッカーに反したとき、サッカーという競技がいかに分かりにくいスポーツかを反省しなければならなくなる。サッカーはバレーボールとは比較にならないくらいに素人に分かりにくいスポーツと言える。世界の著名な方々がサッカーの戦術について議論しても未だにこれといった結論が出ていないのがその証拠だ。もちろん、得点が入れば盛り上がることはできるが、サッカーに関しては0-0で終わることも少なくない。サポーターが誰のどんなプレーがいいプレーだったのかを提示してくれたことで、観戦初心者である私はその場で答え合わせをして歓喜の輪の中に入ることが出来た。それこそがサポーターに与えられた役割の1つだと感じた。

サポーターが効果的に作用している例として

 Jリーグのサポーターを中立で観察する機会がないので、私の守備範囲内で申し訳ないが、たとえば松本山雅FCのサポーター。松本山雅FCは全選手に対してオリジナルのチャントを用意しており、いいプレーを見せると必ずその選手のチャントを歌っている。あるとき私の隣で観戦していたライト層の観客がチャントを聞いて「今のはカキモトミチアキっていう選手だったのね」と話をしていたのを覚えている。これを繰り返すことで一見の観客にスタジアムの雰囲気を提供することができる。この場合に限っては選手の名前も覚えてもらえて声援も送りやすくなる。松本山雅FCサポーターがだてに多いわけではない。

 ゴール裏で声を上げるサポーターに限ることはない。たとえば、FC町田ゼルビアのメインスタンドの雰囲気。頑張った選手には惜しみない拍手を送り、消極的なプレーを見せた時はため息を漏らす。これだけでも一見の観客を会場の雰囲気に、試合に溶け込ませることができるはずだ。

初めて食べたサッカーをいかに美味しいと思わせるか

 今回導いた「初めて食べたサッカーをいかに美味しいと思わせるか」という問いに対する回答はこうなる。「サポーターが会場全体を巻き込んで、みんなで試合を楽しむこと」。ただしこれはサポーターの役割を説明するための十分条件に過ぎない。

 あまりにもありきたりの回答ではあるが、今回のVリーグ観戦はそれを身をもって再確認できたいい機会となった。サッカーという箱の中だけでなく、他の球技や業界と照合することで見つめなおすことも重要なことであると改めて感じた。

 試合はつくばユナイテッドSunGAIAとジェイテクトSTINGSがそれぞれ勝利。ジェイテクトSTINGSは3戦3勝で首位をキープした。

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