東京23FCvsジョイフル本田つくばFC:観戦レポート〜江戸陸を揺らした大逆転劇

試合が始まって早々に得点が動いた。ジョイフル本田つくばFCは前半5分にフリーキックのチャンスから長身の今橋涼選手が頭で合わせて、東京23FCから先制点を奪う。両者ともに前半は立ち上がりからどこかしら硬さが見えていたのだが、東京23FCが素早く大胆にゴールを目指すのに対し、ジョイフル本田つくばFCは丁寧で確実にボールを繋いでゴールを目指す。序盤戦はそれぞれの性質に硬さが乗算された様子だった。

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どうにも動きが鈍い東京23FCを前にして、ジョイフル本田つくばFCは前半14分に2点目となる得点を決めてしまった。前半14分で2-0となり、ジョイフル本田つくばFCが勝利に大きく近づいた。

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本来ならばこの2得点をもって試合は決定づいたはずなのだが、私はどうもしっくりこなかった。私自身、東京23FCの試合は東京都リーグから定点観測的に見てきたので、良い時の東京23FCと悪い時の東京23FCの区別はなんとなくついてきた気がしている。細かく書くと長くなりそうなので「経験上」という言葉で済ましてしまうが、とにかく胸騒ぎがしてならなかった。

どこかで1点を返す予感をしつつファインダーを覗いていると、前半20分過ぎくらいにようやく東京23FCの攻撃機会が増えてきた。2点のリードを奪ったジョイフル本田つくばFCに多少のゆとりができたというのもあっただろう。すると前半39分に廣瀬選手が左サイドから持ち込んで放ったシュートがゴールネットを揺らして東京23FCが1点を返す。胸騒ぎはまだ止まらなかった――。

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充実のホームスタジアム

関東サッカーリーグ1部後期第2節、東京23FCジョイフル本田つくばFCの対戦が江戸川区陸上競技場で行われた。両チームとも上位グループでリーグを戦っており、東京23FCに至ってはまだまだ優勝射程圏内にいる。東京23FCが数少ない江戸川区陸上競技場開催の「ホームゲーム」に優勝争いのライバルを迎えた格好だ。

私は試合のだいたい1時間半前に試合会場に到着したのだが、ピッチ内では小雨が降る中でたくさんの子供たちが東京U23(東京23FCのセカンドチーム)の選手らと元気にボールを蹴っていた。この手のカテゴリではよくある光景だ。ピッチ全体を使って元気にボールを蹴る様子は何とも微笑ましい。しばらくすると、スタジアム内でのイベントが着々と進行されていき、会場を盛り上げていく。まるでJリーグかJFLのチームのごとく忙しく右往左往するスタッフを目で追いながら、これから観る試合は関東サッカーリーグであるのを忘れそうになった。

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着々と試合前のプログラムが進行されていくなか、スタジアムDJがマイクを通じて放った言葉に私は耳を疑った。「みなさんは観客ではありません、12番目の選手です。」まて、これ本気で言ってるのか。サポーターがそういう自負をもって応援するのはよくある話だが、公式のアナウンスで来場して下さった方々に対してそれを言ってしまうのか。しかもその対象は何千人でなく何十人だ。その場では「随分大胆な煽りをするな」と心のなかでツッコミを入れてやり過ごしたのだが、振り返ってみればこの言葉こそが今日の試合の布石であり象徴だったのかもしれない。

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試合が始まって間もなくすると、野太いサポーターの声に混ざって子供たちのよく通る声がスタジアムに響いてきた。さきほどまでピッチでボールを蹴っていた子供たちだ。偉いなぁ、サッカーを教えてもらった代わりにキチンと一生懸命声を出して応援するんだ。無邪気な声援は前半5分、前半14分と立て続けに失点をしても止むことがない。結果として負けているにもかかわらず、会場の雰囲気は明るく前向きな力で溢れていた。

前半39分に廣瀬選手の得点で東京23FCが1点を返すと、スコアが2-1と詰まる。スタンドはいよいよ前向きな雰囲気を強めた。

東京23FCの弱点を突き、してやったりの4-1

後半の焦点はジョイフル本田つくばFCがいかにして逃げ切るか、東京23FCがいかにして逆転するかという単純なものとなった。残り45分という短い時間でいかに先に追加点を奪うか否かだ。

1点が入るか入らないかの試合展開を予想して臨んだ後半戦だったが、またしてもあっさりと得点が動いてしまうのであった。後半5分にジョイフル本田つくばFCはコーナーキックから長身の今橋選手が頭で合わせて追加点を奪う。試合を通じて分かったことだが、東京23FCはどうやらコーナーキックなどセットプレーの守備が弱点らしい。しかも聞く話によると今に始まったものではなく、例えば試合を見ていた子供が「なんで23はコーナーキック弱いの」とぼやく程度には周知の弱点だったようだ。確かに東京23FC はセットプレー時の守り方のルールが見えてこなく、ボールを見てしまう選手が多い気がした。

東京23FC がセットプレーに弱い一方でジョイフル本田つくばFCは長身の今橋涼選手を前線に置くだけで十分すぎる武器になる。ふと思い立って前期の公式記録を見てみると、実は前期の対戦でもジョイフル本田つくばFCは左コーナーキックから今橋涼選手のヘディングシュートで得点を奪っていた。ジョイフル本田つくばFCとしては狙い通りの得点パターンだったのかもしれない。

ジョイフル本田つくばFCは後半12分にもコーナーキックから得点を重ねてスコアを4-1にする。残り30分程度で3点もの差をつければ試合としては決まったものだ。・・本来ならば。

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江戸陸劇場開演

スコアが4-1となり、勝負は決まったはずだった。しかしどうにもこのまま終わる気がしない。ジョイフル本田つくばFCの最終ラインが不安定だったあたりがその要因だ。それは明らかな弱点として私の目に映った。そして私が気づくくらいだから東京23FCの選手らが気が付かないはずがない。ジョイフル本田つくばFCの弱点に気がついた東京23FCは徹底してシンプルに最終ラインの裏へボールを送るようになった。

縦方向の放り込みというのは手間をかけない単純な戦術だったので、追いかける方としてはさぞかしやりやすかったことだろう。しかも縦に速い攻撃は東京23FCの古くからの十八番のはずだ。

東京23FCはくどいくらいにロングボールを放り込み続ける。間もなくしてこの攻撃が得点につながった。後半22分、東京23FCジョイフル本田つくばFCのGKとDFの間にボールを放り込むと、これがGKとDFのお見合いを導く。中途半端になったボールを田村聡選手がすかさず拾うと、素早くGKを追い越して丁寧に足元へ落とし、無人のゴールへ確実に収めた。

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後半36分、東京23FCは右サイド後方からジョイフル本田つくばFCの最後尾の選手をめがけてボールを放り込む。すると溢れるのが分かっていたかのように余っていた唯井竣平選手がこぼれ球を拾い、難なくゴールネットを揺らした。

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後半44分、東京23FCジョイフル本田つくばFCの選手のミスから田村聡選手がGKと一対一を迎えると、右サイドに余っていた猪股選手へ開き、シュートのこぼれ球を再び田村聡選手が詰める。

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さらっと得点経過を書いてしまうとあたかも淡々と試合が流れたように感じさせてしまうが、東京23FCは1−4という劣勢から見事に追いついてみせた。想像の域を超えた同点劇だ。

後半はスタンドから「熱いプレーで江戸陸を揺らせ」と子供たちの声援が送られ続けたが、得点を重ねるごとにその高らかな声は元気よくなり、得点上の劣勢を全く感じさせない雰囲気が続いていた。実際のところ、東京23FCジョイフル本田つくばFCの弱点を見抜き、パターン化まで落とし込んでいた。「あとちょっと」というのは分かりやすかったので尚更に「点を取れる気がする」と希望を共有していたのだろう。

次々と得点が重ねられる中、ふと気がついてスタンドを振り返ってみると、テンションが高まった子供たちが雨にぬれながら肩を組み、元気に歌っている様子が見られた。それにつられた大人たちも自然と笑顔があふれてくる。笑顔っていうのはやはり力の源だ。前向きな雰囲気はどんどん加速していった。

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江戸陸を揺らした瞬間

試合は東京23FCが3点差を追いついて後半45分を迎えた。もうこれだけでも十分すぎる出来事だ。しかしながら私は東京23FCの驚くような底力を今まで幾度と無く目の当たりにしてきた。定点観測的に見ていた私がそう思うのだから、応援する皆さんはもっと強く感じたことだろう。「まだ終わらない」と。

後半アディショナルタイム、東京23FCはカウンターから池優太選手が左サイドを駆け上がる。私がカメラを構える目の前で繰り広げられたビッグチャンスに、不思議と得点を確信した。すると背中からこの試合一番の歓声が湧いたのだ。そこにはまるで数百人の観客がいるのかと錯覚するくらいだった。思わず振り返って確認したくなったが、ぐっとこらえてファインダーを覗き続ける。すると、ゴール前で伊藤竜司選手にボールが渡った瞬間に、数百人の声は数千人の声へと化けた。伊藤竜司選手はその場面を「ボールが来て、キーパーが見えたらスローモーションになった」と振り返っている。誰もが得点を確信した中で放たれたシュートはゴールネットを揺らし、歓喜は「江戸陸を揺らした」。

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逆転の歓喜に圧倒されながら、私は試合前にスタジアムDJが放った「みなさんは観客ではありません、12番目の選手です。」という言葉をふと思い出す。終わってみれば東京23FCのホームスタンドは正しく12番目の選手となっていた。しかしなぜ彼らは12番目の選手となりえたのか。その裏には試合前の充実したもてなしがあり、試合中は最後まで諦めずに戦う東京23FCの選手の姿がある。それらの精神を身を持って受けてしまったら、一生懸命に応援したくなるのが人間の性だ。彼らがチームからどれだけのギブを受けているかは、彼らの最高のテイクから感じることが出来る。おそらく全てが計算されたわけではない。あくまで私の主観による考察だが、「一緒に戦う」というのをありとあらゆるところで貫いた結果が、この劇的な勝利に繋がり、劇的なチーム作りとなっているのだろう。

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私はこのチームの数々の奇跡を目の当たりにしてきたが、それでもまだ何かを起こしてくれるかもしれないと期待してしまう。定点観測しかしていない私がそう思うのだから、ファンやサポーターとしては尚更に何があっても最後まで期待せざるをえないはずだ。

試合は東京23FCが5-4でジョイフル本田つくばFCに勝利した。関東サッカーリーグ1部制覇へはまだ千葉県の2チームを追い越さなければならず、頂は高い。劇的な逆転劇の裏で4失点した事実はやはり目を背けられない。おそらく勢いに乗ってどこまでも・・とはいかないだろう。しかしながら、「ホーム江戸陸」でのこの勝ち方は今後のどんな劣勢時にでも素晴らしい原動力になってくるに違いない。

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それにしてもとんでもない試合を見てしまった・・。

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