SC相模原vsFC町田ゼルビア:観戦レポート〜日本式ダービーの礎

前半3分、SC相模原は井上平選手のヘディングシュートで先制点を奪う。最初の攻撃から最初のコーナーキックを得て、最初に掴んだビッグチャンスでありながらきちんとゴールマウスへボールを収めてみせた。得点が入ったその瞬間、緊張感に包まれていた観客席は、青色半分を置き去りにして突沸した。メインスタンドを背にして試合を眺めていた私としては、その大きな拍手と歓声はその数分前までは想像できないくらいだった。



相模の国(相模原)と武蔵の国(町田)による「相武決戦」はこの得点を皮切りにしてSC相模原が終始主導権を握る展開となり、常に先手を打ったSC相模原が2-1で勝利した。試合中は明治安田J3リーグというリーグカテゴリにそぐわない際どいファウルが何度も繰り返され、警告を示すカードが飛び交った。ゴール前の場面になる度に、主審がファウルの判定を下す度に、両チームのファンの手拍子や歓声がステレオサウンドの如くプレーと呼応する。時にはメインスタンドからブーイングが飛ぶこともあった。この決戦を初めて体験したSC相模原の辛島啓珠監督が「とても盛り上がっていた」と振り返ったように、会場は熱気で満ちていた。

試合後はSC相模原の選手がゴール裏で歓喜を分かち合う数分間に、青色の観客は見事なまでに会場から消えていた。喜びと悲しみのコントラストを感じるには十分すぎる光景だった。

これぞ日本風のダービーの形

試合会場に到着したのがキックオフの1時間半前だった。今回は隣接する自治体のライバル対決ということで、さぞかし盛り上がっているのだろう。そう心躍らせてフィールドへ出てみたのだが、意外にも客席は人の気配が少なかった。雨だから・・?それともまだ早すぎたから・・?ここで入場前にSC相模原のサポーターから「カレー食べてって下さい」と言われたのを思い出した。

スタジアムの外周を回ってホームゴール裏席の裏に到着すると、そこには沢山の売店と長蛇の列が広がっていた。列の色を見てみると、青と緑が何の違和感もなく混ざっている。決戦の地とはいえ、至極平和な日本においては至って普通な光景ではある。しかしながらJリーグでいわゆるダービーを想像してからいくと拍子抜けすることだろう。その傍らではSC相模原のサポーターが声高らかにダービーチャントを練習し、士気を高めている。何とも不思議な光景だった。

選手がピッチ内でアップを始める頃にはさすがに多くの観客が着席していた。観客が十分に集まったところでスタジアムDJが応援団と一緒に応援練習ということでメインスタンドとバックスタンドを煽ってみせるのだが、案の定としてスティックバルーンを叩くのが精一杯だ。そりゃあね、そうだよ。だってメインスタンドとかバックスタンドとか、基本的にゆっくり試合を観戦したい人が座る席なんだからさ。日本人ってそういう人種だし。

「相武決戦」なのか「武相決戦」なのかなんていう世間一般からしたら割とどうでもいいところにこだわりを演出するなど、この対決を盛り上げようという広報的な煽りはあった。しかしどうもピリッとしない空気を感じたことで懐疑的にならざるをえない。対立を押し付けすぎてはいないだろうか。それにもかかわらず、その誤解はキックオフの笛と共に消え去り、前半3分で反転したわけだ。

歴然とした意識の差

試合は前半3分の得点が全てを物語っていた。後手に回ったFC町田ゼルビアは攻める時間が長かったにも関わらず、ペナルティエリア周辺までボールを運んだところでシュートを放てず、SC相模原の守備網に捕まる場面が多すぎた。たとえ個のプレーで突破しても、その時には既に緑の壁がズラっと並んでいる。順位からしてほぼ同等の力を持ちながら、SC相模原FC町田ゼルビア以上に高い集中力を保って試合に臨んでいた。

当然として偶然の要素もある。SC相模原は前半3分に先制できたからこそ守備意識を高く、かつ攻撃に人数を割かずに過ごせたわけだ。しかしこれは偶然とは思えない。試合後の記者会見でFC町田ゼルビアの相馬監督は残念そうな表情で「どこか綺麗なことをしようとして入ったゲームで、そこを差し込まれた」と振り返っている。この試合に対する意識に差があったのはピッチレベルで見ていた私自身ですら強く感じた点だ。

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注目度はまだまだ低い

この試合の観客数は4,862人だった。ホームチームであるSC相模原にとって決して特別に多い数字ではない。アウェイのFC町田ゼルビアにとっても決して特別に多い数字ではない。今季の両チームの観客動員と比べてみたら、だいたい足してその程度だからだ。もちろん単純計算では済まないくらいのことはわかるが、それにしてもこの数字を見る限りだとまだこの対決が特別な試合として十分に浸透していないように見える。

今季のホームゲーム観客動員
SC相模原 FC町田ゼルビア
第1節 vsJリーグU-22選抜 3,061人 vsAC長野パルセイロ 7,803人
第2節 vsAC長野パルセイロ アウェイ vsY.S.C.C. アウェイ
第3節 vsガイナーレ鳥取 2,021人 vsブラウブリッツ秋田 2,853人
第4節 vsグルージャ盛岡 1,666人 vsカターレ富山 アウェイ
第5節 vs藤枝MYFC アウェイ vsガイナーレ鳥取 2,843人
第6節 vsFC町田ゼルビア 4,862人 vsSC相模原 アウェイ

過去の記録を見てみると、先輩に当たるFC町田ゼルビアが4勝1敗と圧倒的に勝ってきている。加えて昨年はFC町田ゼルビアが3戦全勝していた。おそらくFC町田ゼルビアとしては心の奥底に先輩である故の過信があったのかもしれない。FC町田ゼルビアがこの敗戦を本当に悔しいと思ったならば、おそらく次の対戦こそはもっとガムシャラに挑んでくるはずだ。

FC町田ゼルビアに火が着いたとすれば、「相武決戦/武相決戦」はいよいよダービーとしての熱を帯びてくるはずだ。私が知るかぎり、今は名勝負となっているどんなダービー戦も、最初は一方的な喧嘩売りだった。火の粉を振り払っているうちに必然として意識するようになり、向き合ってこそようやくライバルとなりうるのだ。両者がライバルだと心から意識したその時に、このただでさえ熱い試合はもっと熱を帯びることだろう。

ところでJリーグで言われているダービーとは異なる、この独特の熱さをもった対戦カードは何と表現したらいいのだろう。そう考えて出てきた単語が「運動会」「球技大会」「祭り」といったものだった。どれも穏やかそうに見えるが、競技中は真剣そのものだ。「いつも一緒に下校するあいつには負けられない。」「となり町のあいつらにうちの町内の力を見せてやれ。」普段の生活では苦楽を共にするけど、ピシっと線を引かれた時に突然として闘志を燃やす。欧州から輸入してきた不必要に過激な「戦争」とは全く異なる。そう考えるとなんとも日本らしい。

(写真・文)龍星ひかる
(取材協力)東京偉蹴FOOTBALL編集部

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