関西2日目。京都タワーの展望台から見えたのは一面の青空。朝ということもあり遠くはまだ霞がかっていたが、雲一つない晴天は後に季節外れの凶器となる。その事をこの時点で予感できないあたりがまだまだ私の至らぬ点なのであろう。
関西リーグ開幕戦2日目はASラランジャ京都と奈良クラブが太陽が丘陸上競技場で対戦。太陽が丘とは何とも出来た名前だ。その名の通り、陽射しが容赦なく降り注ぐ季節外れの炎天下で試合は行われることとなった。
ピッチに入場した選手はスタンドに背を向けたままピッチの中央で一列に並ぶ。続いて主審の笛と共に黙祷が行われた。静寂を過ぎると奈良クラブのサポーターから「東日本」コールをいただきました。残念ながら声は届けられませんが、その事実はここできちんと届けます。
奈良クラブペースの前半戦
立ち上がりは奈良クラブが積極的に攻め込む。奈良クラブは中盤から最終ラインの裏へ積極的にボールを配球。ラランジャ京都の守備をグイグイと押し込んだ。
ラランジャ京都は押されながらも単発の攻撃を繰り返して徐々にペースを掴む。しかし奈良クラブの守備がラランジャ京都の攻撃を許すことはなかった。
暑さに負けない劇的な先制撃
見せ場を作りながらも、なかなか効果的なプレーが出来ない両チーム。両チーム共に守備で踏ん張りを効かせていたというのもあるだろう。しかし半袖で事足りる程の暑さがじわじわと両者の集中力を削いでいったようにも見えた。
暑さが襲ったのは選手だけではない。この日の公式入場者数100人もまた同じだ。そしてその約半分は奈良県から駆けつけたファンであり、そのうち20名程がチャントでホームの雰囲気を作り上げていた。少人数ながら選手を鼓舞し続けるサポーター。暑さなど一切関係ない。声援は一切途切れることがなかった。
その声援に奈良クラブが応える。前半終了間際、右サイドから中央へ展開すると、14辻村隆史がゴール正面でボールを得る。奈良クラブの攻撃に耐えていたラランジャ京都が前半唯一の隙を見せた。マークが甘くなっていた辻村は丁寧に左足を振り抜くと、ボールはゴールへと吸い込まれていった。
ゴールを知らせるホイッスルはそのまま前半終了をも告げる。前半終了間際のひとつのチャンスを決めた奈良クラブが1点のリードを奪って前半を終えた。
どうしたラランジャ京都!?
前半の戦いを見て気になったのがASラランジャ京都。前半のラランジャ京都は全くと言っていい程に攻め手を欠いていた。このまま消耗しきってしまうのだろうか。
ASラランジャ京都は後半にようやくエンジンがかかった。エンジンがかかったという表現は適切ではないかもしれない。明らかなのは前半と比べて攻撃がきちんと組み立てられていたということ。組み立てられていたというのも語弊かもしれない。ASラランジャ京都は奈良クラブの弱点を突くことで主導権を握っていた。奈良クラブは両サイドを高くポジションを取って攻撃を仕掛け続けていた。後半のASラランジャ京都は奈良クラブが留守にしたサイドのスペースに積極的に突いた。
マナスペシャル炸裂
ペースを掴んだラランジャ京都が奈良クラブのゴールを襲う。後半3分、ASラランジャ京都は敵陣右サイドでスローインを得る。全国に多様なチームあれど、スローインがチャンスとなるチームは少ない。ASラランジャ京都はその数少ないスローインをチャンスに出来るチーム。関西リーグ名物「マナスペシャル」こと9中尾真那のロングスロー、本日一発目がここで炸裂する。
知ってはいただろうが、そのスピードと正確性は実際見てみないと分からない。右サイドから放り込まれたボールは26大河内英樹の頭を捉える。大河内はそのままゴールへとボールの弾道を変え、ボールはクロスバーを経由してゴールラインを割った。奈良クラブのGK日野優の反応が僅かに遅れたように見えたのがとても印象的だった。ASラランジャ京都が漫画のような必殺技で試合を振り出しに戻した。
ちなみに「マナスペシャル」は敵陣であれば何処からでも放たれるため、ASラランジャ京都との試合は非常に手を焼くことになる。
後半早々、振り出しに戻った開幕戦はやがて試合は膠着を迎える。時間の経過と共に暑さが両チームをむしばみ、あと一歩の距離が、あと僅かな精度が積もり積もっていくようにみえた。
魂でブチ込んだ決勝点
決定機をなかなかものに出来ない両チーム。後半43分、奈良クラブは右サイドから中央へ流れるようにボールを送ると、ペナルティエリア内左にいた5吉田智尚が絶好機を迎える。吉田は落ち着いてボールをゴールにめがけてけり込んだ。しかしこのシュートはGK辰巳正矩に弾かれてしまい、スタンドのため息と共にゴールラインを越えた。
攻めど攻めどゴールが遠い。これが限界なのか。そう思った私もまた奈良クラブに敗れた一人なのだろう。難を逃れたASラランジャ京都は続くCKで隙を見せることとなる。
後半44分、奈良クラブは左CKからゴール前へボールを放り込む。何気ない弾道を描いたボールを捉えたのは34三本菅崇だった。高く飛び上がった三本菅は頭でそのボールを捉えると、それを一直線にゴールへと放り込んだ。前所属である松本山雅FCで酸いも甘いも経験している三本菅が、勝負の時間帯できちんと奈良クラブを勝利へ導いた。
前半と後半、それぞれ終了間際に得点して勝利した奈良クラブ。まだ試合運びには難があるようだが、最後まで勝利にこだわる勝負強さは光るものがあった。駆けつけたサポーターも報われたというものだ。ホームの試合でも魂のこもった試合をすれば自ずと観客数は増えてくるはずだ。
進化する奈良クラブ
昨年まで青と赤の組み合わせがチームカラーとなっていた奈良クラブ。今季からは青をベースに薄い紫をポイントとして配色したデザインとなった。
今回はセカンドユニフォームで戦っているため、このユニフォームのお披露目はお預けとなっている。斬新に変化を遂げた奈良クラブだが、変わったのはユニフォームだけではない。Jリーグを経験しているGK日野優や、先制ゴールの14辻村隆史といったオンリーワンの選手が奈良クラブの攻守を厚くした。選手だけでなくチームをとりまく環境も大きく変化している。ひとつに、今季から練習グランドが固定となった。ちなみに今まではゴールすらない練習場を転々としていたというのだから劇的な変化だ。全国クラスの強豪集う関西リーグ制覇へ向けてまずは1勝。着々とチームの基盤を固めつつある奈良クラブからは前進する未来しか見えてこない。