松本山雅FCvsAC長野パルセイロ:観戦レポート

JFL前期第8節。長いリーグ戦の一幕ではあるが、時折リーグ戦という舞台を凌駕する意味をもった対戦カードが出現する。「絶対に負けられない」というとキャッチコピーは使われすぎて安い修飾句になってしまったが、チームの、地域のプライドを賭けた対戦カードがそこにはある。あのチームだけには絶対に負けてはならない。この気持ちが両思いとなったとき、そこには「ダービー」と呼ばれる無条件に熱い試合が成立することとなる。「パルセイロだけには負けられない!」「一生オレンジ!緑は大っ嫌い!」二つの宣戦布告がアルウィンに交差した。

全国版信州ダービー第1ラウンド。かつて北信越リーグ限定だったご当地ダービーも両チームのJFL昇格により舞台を全国に移した。後に歴史に刻まれるであろう一戦は灰色の空が包む松本市松本平広域公園球技場「アルウィン」で幕を開けた。

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開始早々の先制劇

大歓声の中ピッチに現れた両チーム選手。キャプテンが握手を交わすと、両チームは陣地を入れ替える。強風を味方にしようという企みに成功したのはAC長野パルセイロだ。前半を風上で戦うことに成功したAC長野パルセイロが攻勢で試合を進めることとなる。AC長野パルセイロは積極的にボールを放り込んで松本山雅FCを押し込んだ。

4分、さっそくAC長野パルセイロの攻撃が実る。右サイドの朝い位置からボールを前線に放り込むと、前線で構えていた10宇野沢祐次にボールが渡った。宇野沢は簡単にそれをはたくと、ボールは左サイドに流れていった。

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左サイドに流れたボールは13藤田信が拾うかと思われたが、藤田は松本山雅FCのCB飯田真輝を引きつけただけだった。両CBを振り切ってぽっかり空いたスペースを使ったのは7土橋宏由樹。かつて松本山雅FCに所属していたミスター信州ダービーが、全国の舞台で初めて行われる信州ダービーのファーストゴールをブチ込んだ。

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白いひとつの塊がピッチ傍にできると、オレンジのゴール裏は一気に弾ける。感情を失った緑の声援が不気味にアルウィンを包み込んだ。

劣勢の松本山雅FC

松本山雅FCはどうも様子がおかしい。足がぱったりと止まってしまい、かつて市原臨海で見たダービー独特の集中力や闘争心は感じられない。雰囲気に飲まれている感じすらあった。あるいは風下は不利と踏んですぐに反撃に出なかったのか。チーム全体が守備に追われ、攻撃は前線の33木島良輔、13木島徹也、7北村隆二の3人に委ねられる。全く反撃をかけようという気配を感じなかった。

スコアは動けど試合展開は全く動かない。積極的に仕掛けるAC長野パルセイロとやり過ごすだけになっていた松本山雅FCの構図はなかなか揺るがなかった。

前半も終盤に近付くとようやく松本山雅FCに攻撃の厚みが生まれる。33木島良輔が先頭で体をはってゴールをこじ開けようと試みると、両サイドをテリトリーとしていた16鐡戸裕史と6今井昌太をはじめとした多くの選手が攻撃に絡むようになる。

40分には13木島徹也の強引なサイド突破からゴールライン際でFKを得る。放り込まれたボールは4飯田真輝と23多々良敦斗が重なる様に頭で合わせた。ゴールに向かったボールは長野のGK諏訪雄大が捕えたものの、33木島良輔が無理矢理かっさらってゴールに放り込んだ。判定は当然のキーパーチャージで警告も辞さないプレーだったが、松本山雅FCの勝利に対する執念が表れたプレーだった。

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木島のファイトあるプレーにアルウィンは緑の歓声で一気に加熱。歓声に押されるかの様に松本山雅FCの反撃が始まった。

波状攻撃でねじ込んだ同点弾

ロスタイム、松本山雅FCは左サイドで鐡戸裕史がボールを保持すると、簡単に中央に放り込む。このクロスはAC長野パルセイロの必死の守備に跳ね返されたが、13木島徹也がこぼれ球をゴール正面で拾う。2人に寄せられてシュートコースは防がれたが、後方にいた20須藤右介に送ると、須藤はすかさず右足を振り抜いた。しぶとく放った松本山雅FCのシュートはまたしてもAC長野パルセイロに阻まれる。

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それだけでは終わらなかった。松本山雅FCは6今井昌太がボールを拾うと再びゴールをめがけて蹴り込む。遠目から放たれたボールはGK諏訪雄大の左手をすり抜けてゴールネットを揺らした。

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ロスタイムの同点撃に沸騰するアルウィン。サッカーにおいて劣勢という表現がいかに無責任なのかか。まもなくして前半終了の合図が告げられるのだが、野次馬としては既にお腹いっぱいの熱戦だった。

あと少し、あと少しの戦い

後半に入りエンドが代わると強風は松本山雅FCの味方をする。前半終了間際の勢いを持続した松本山雅FCAC長野パルセイロのゴールに迫った。

後半6分、松本山雅FCはペナルティエリア左で33木島良輔がボールを保持すると、後方にいた16鐡戸裕史にボールを預ける。鐡戸はすぐさま右足を振り抜くと、ボールは一直線にゴールへと向かっていった。

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強烈な一発はコースが甘く、GK諏訪雄大を強襲。弾いたボールを13木島徹也が寄せていたが、守備に阻まれて寄せきれなかった。

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劣勢を強いられていたAC長野パルセイロは16栗原明洋に替えて11冨岡大吾を投入。3トップ気味にすることで変化を与えた。

後半37分、AC長野パルセイロは左サイド低い位置からゴールまえにボールを放り込むと、11冨岡大吾がGK白井裕人と競り合いながら頭で合わせた。ボールはGK白井を振り切ってゴールへと向かっていった。

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しかしながらボールはゴール左にそれていき、詰めていた10宇野沢祐次も精一杯足を延ばしたが、その軌道が変わることはなかった。

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決定機を作りつつも両者一歩も譲らない後半。気がつけば空は灰色に染まり、適度な雨がアルウィンを襲っていた。ピッチで戦う選手も、ゴール裏で盛り上げる両サポーターも、信州ダービーを楽しみにしてきた野次馬も、我慢の時間を過ごすこととなった。

同点のままロスタイム2分が掲示される。しかしこの試合がドローで終わる未来は想像できなかった。決着をつけるのはホームの松本山雅FCか、アウェイのAC長野パルセイロか。

決着はロスタイムに

ロスタイム、勝利をつかんだのは松本山雅FCだった。松本山雅FCは右サイドで6今井昌太がボールを保持すると、中央へ展開。中央で構えていた7北村隆二がかかとで簡単にはたくと、ボールは13木島徹也の元に渡った。

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ボールを受けた木島はマークについていた相手に決して背を向けず、前を向いたまま勝負に出た。タイミングよく切り替えした木島は相手の守備を振り切ると、右足を振り抜く。ボールはゴール右隅に突き刺さった。

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同点で終わらなかったあたりがダービーのダービーたる故。松本山雅FCが劇的な逆転弾で信州ダービーを制して今季初勝利をあげた。

AC長野パルセイロ、初年度とは思えない存在感

「ダービーは勝てばいい」「ダービーだから試合内容はどうでもいい」「熱い試合をありがとう」ダービーという特例を武器に綺麗な言葉で締めくくるのもひとつの手だが、北信越リーグから両チームをザックリと追ってる身としてこの試合をJFL前期第8節のひとつの試合ということでまとめたい。

数字上では松本山雅FCが勝ったが、チームの完成度としてはAC長野パルセイロの方が強く印象に残ってる。何より印象的だったのはAC長野パルセイロはJFL初年度とは思えない堂々たる試合運びを見せてくれた点だ。

手馴れた相手で馴染みのある場所だからというのもあるかもしれない。それにしても全く臆することなく思い切りのいいプレーが目立っていた。攻撃に関して特に先制のシーンは完璧。ゴール前で縦にボールを動かして崩す破壊力抜群の攻撃はJFLでも健在だ。開幕のジェフリザーブズ戦で4得点を奪ったのも理解できる。

今回は敗れてしまったが、決して悲観的になる内容ではなかった。試合後に出迎えたゴール裏のサポーターから怒りの感情が感じられなかったのも、出せる全てを出し切った試合だったからなのだろう。初年度らしからぬAC長野パルセイロの快進撃に期待したい。

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ちぐはぐの松本山雅FC

逆に松本山雅FCは心配な点が多い。攻守において個々の役割自体ははっきりしていたものの、彼らの役割がきちんとチームに還元されていたかというと疑問が残る。ひとつに、これまで攻撃の核となっていた柿本とは全く異なるタイプの木島良輔をトップに置いたことによって本来の松本山雅FCの攻撃ができなくなっていた。守備においても試合運びにおいても曖昧さと不安が垣間見えた。

選手を大幅に入れ替えてチーム大改造を施した今季。これまでの戦い方にプラスされたというよりはゼロから作り直している感が否めない。しかしそれでも勝利できるだけの強さは持ち合わせていることを証明した。今日の試合の様子だと前期は安定して勝ち点を重ねられなさそう。それでも、しぶとく勝ち点を拾い続けることでチームとしての戦い方を成熟させられたならば、シーズンを終える頃には誰にも止められないチームになっていそうだ。

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信州が生んだ2つの強豪チーム。結果内容共に明暗を分けることとなったが、それぞれのチームカラーがはっきり表れた試合でもあった。11,663名という前代未聞の観客動員数を記録したご当地ダービーがゆくゆくは日本をリードする大一番となるよう、両チームのさらなる飛躍に期待したい。

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