横浜F・マリノスvs福島ユナイテッドFC:観戦レポート

J1相手でも戦闘体制

 天皇杯の風物詩と言えば、普段相対することの無いアマチュアとプロが一同に会することにある。アマチュアのチームがプロのチームに「胸を借りますぜ」とばかりに死に物狂いで喰らいつき、プロはその挑戦に対してプライドをかけて勝たなくてはいけない。そして試合後には健闘したアマチュア選手にエールを送り、胸を貸してもらったプロチームに感謝のエールを送る。そんなほのぼのとした光景が天皇杯では常になっている。

 ところがこの日に行われた「横浜F・マリノスvs福島ユナイテッドFC」はどうも違った。その光景が顕著に見られたのは選手紹介のアナウンスの時だ。先にホームチームとなる横浜F・マリノスの選手の名前が呼ばれると福島ユナイテッドFCのサポーターから容赦ないブーイングが飛び交う。なんとも議論が起きそうなことをしてくれたものだ。そんなことをするものだから福島ユナイテッドFCの選手紹介のアナウンスは、仕返しとばかりにされた横浜F・マリノスのチャントで完全にかき消されててしまう。福島ユナイテッドFCの選手の紹介アナウンスはメインスタンド中央に居ても全く聞こえなかった。もちろん、福島ユナイテッドFCサポーターがしていたであろう合いの手も。行為の良し悪しはともかく、福島ユナイテッドFCのサポーターは少なくとも記念受験をする気は無かったらしい。そうだ、J1横浜F・マリノスに勝つために福島からバス2台でやってきたのだ。福島ユナイテッドFCのサポーターは完全に戦闘体制だった。

ここからJリーグ-横浜Mvs福島U

宣戦布告むなしく・・前半で決勝となる3失点

 試合開始と同時に先に仕掛けたのは福島ユナイテッドFCだった。キックオフと同時に横浜F・マリノスのゴールをめがけて突き進むととりあえずのシュートをMF片原潤が放つ。これを皮切りに開始1分程で3本のシュートを放ってみせた。ゴールを割ることが出来なかったが福島ユナイテッドFCの選手もこの奇襲をもって横浜F・マリノスに宣戦布告をした。

 福島ユナイテッドFCが立ち上がりにチャンスを作ったことで過去が蘇ったのか。スタンドの横浜F・マリノスファンからは悲鳴交じりの溜息が漏れた。しかし横浜F・マリノスの選手は冷静だった。木村監督に「侮ったら必ずやられるよ」と言われて送り出されたトリコロールの11人は最初の奇襲を難なく受け流すとすぐに丁寧にボールを保持して試合の主導権を握る。攻勢に入った横浜F・マリノスが11分の渡邉千真のゴールをはじめ17分と43分に順当に加点をして3点を奪うのはあまりにも簡単なことだった。前半でセーフティリードとなる3点をさっさと叩き込んだ横浜F・マリノスが早くも試合を決してしまった。

ここからJリーグ-横浜Mvs福島U

そして歴史が動く・・時崎悠が1点を返す

 後半立ち上がりにも改めて攻めに出るのかと思ったが福島ユナイテッドFCの選択は守備だった。押し込まれてこうなったのかあえて守備から入りなおしたのかは分からなかったが、守っていれば得点チャンスはある。特に相手は既に3点リードで残りの時間は消化体勢。乱暴な言い方をすれば短時間でも隙をみて畳み込めば流れを掴むことは可能になる。

 そうして訪れたのが後半25分の時間帯。深澤幸次が放ったミドルシュートがゴールポストを叩くと、これが反撃のゴングとなる。福島ユナイテッドFCはカウンターからDF青柳雅信が右サイドでボールを受けると中央に張っていた深澤幸次に一度ボールを預ける。ボールを受けた深澤幸次は十分なためを作ってからオーバーラップして最終ラインの前に向かっていた青柳雅信にもう一度ボールを預けた。再びボールを受けた青柳雅信はは横浜F・マリノスの中澤佑二と小宮山尊信に挟まれながらも強引に抜け出してついにGK飯倉大樹と一対一の局面を迎える。この決定的なチャンスで青柳雅信が放ったシュートはGK飯倉大樹に阻まれたが、このトライが結果的に得点に繋がった。

ここからJリーグ-横浜Mvs福島U
ここからJリーグ-横浜Mvs福島U

 GK飯倉大樹に弾かれた青柳雅信のシュートはそのままゴールラインを割ってCKのチャンスとなる。このCKからニアサイドに向かって上げられたクロスは小宮山尊信の頭をすり抜けて時崎悠の元へと向かった。ようやく訪れた決定的なチャンスで時崎悠は中澤祐二と競り合いながらも丁寧にボールを叩きつけてゴールへと流し込む。福島ユナイテッドFCの歴史にJ1のチームから初めて奪った得点者として時崎悠の名前が刻まれた。

ここからJリーグ-横浜Mvs福島U

 反撃がこの1点に終わってしまったのが福島ユナイテッドFCの弱さであり、反撃を得点で返したのが横浜F・マリノスのプロチームとしての強さだった。セーフティリードが崩れた横浜F・マリノスは2分後の後半29分に狩野健太のミドルシュート一発ですぐに1点を返した。あまりにも無常な追加点だったが隙を逃さず簡単に得点してしまうあたりは福島ユナイテッドFCがJFL昇格へ向けて習得すべきポイントの一つとなる。日本のトップリーグの力を見せ付けた横浜F・マリノス福島ユナイテッドFCを下した。

横浜F・マリノス 4-1
(3-0)
福島ユナイテッドFC
前半11分 渡邉 千真
前半17分 坂田 大輔
前半43分 田中 裕介
後半29分 狩野 健太
後半27分 時崎 悠

必然の結果の中で掴んだものは・・?

 福島ユナイテッドFCの敗戦は必然だった。確かに北信越リーグの松本山雅FCが2回戦でJ1の浦和レッズに勝ったことで地域リーグのチームが勝てる可能性は示された。しかしこれは松本山雅FCの得意としている戦術が、かみ合わない浦和レッズにぴったり嵌った特異な例であるのを忘れてはいけない。

 過去の対戦結果を見ても地域リーグのチームがJ1のチームと対戦すれば大敗すると相場は決まっている。例えば今年の例で言えば四国リーグのカマタマーレ讃岐FC東京に4-0で敗れており、レノファ山口FC川崎フロンターレに6-1で敗れている。試合を実際に観戦しても福島ユナイテッドFC横浜F・マリノスに勝る点は一つも無かった。福島ユナイテッドFCは迎えるであろう当然の結果が示される90分間の中で何が出来るかが一つの課題となっていた。その限られた90分間の中で記録した時崎悠の得点は福島ユナイテッドFCのひとつの大きな記録になる。横浜F・マリノスから1点を奪った地域リーグのチームとして地元福島にも十分な宣伝になったはずだ。いや、アピールポイントにしなくてはいけない。

 福島ユナイテッドFCの今シーズンは終わった。目標の一つであった地域リーグ決勝大会への進出は叶わなかったが、設立2年目、東北1部リーグ1年目でリーグ2位、全社ベスト16、天皇杯2回戦突破と言うのは十分すぎる結果になる。ここで腐ることなく地域リーグ屈指の人数を誇るサポーターを含めたチーム全体で1年間戦う体力を蓄えて来年は更に上を目指したい。

ここからJリーグ-横浜Mvs福島U

 試合後、横浜F・マリノスのサポーターに挨拶に行った福島ユナイテッドFCの選手たちの背中からはJ1のチームを相手にやりきった清清しさよりも負けた悔しさがにじみ出ていた。

関連ニュース
関連試合
関連レポート

検索

Twitter

Facebook