ガイナーレ鳥取vsV・ファーレン長崎:観戦レポート

勝者なきスタジアム

 主審が試合終了を告げた時、至福のときを過ごしていた彼らは温かい拍手で会場を包み込んだ。どらドラパーク米子市陸上競技場で行われたJFL最終節「ガイナーレ鳥取vsV・ファーレン長崎」は、ガイナーレ鳥取が前半のビハインドを覆す逆転勝利をあげた。これ以上に無い歓喜の瞬間のはずだった。ところがそこに喜びは無かった。緑の観客たちは我に返ると次々に肩を落とし、ため息を吐く。ピッチで死闘を終えた勝者たちは途方にくれて、中にはその場で倒れこむ者すらいた。そこにいるべき勝者はこの試合に限って存在しなかった。私自身、こんな悲しい雰囲気に包まれたスタジアムは初めての経験となる。

 ガイナーレ鳥取がJリーグ昇格条件である4位以内でシーズンを終えるには自身の勝利と4位ソニー仙台FCの敗北が必要だった。背水の状況でガイナーレ鳥取は何とか勝利したが、ソニー仙台FCも勝利したため、ガイナーレ鳥取は5位でシーズンを終えた。

ガイナーレ鳥取 3-1
(0-1)
V・ファーレン長崎
後半26分17鶴見聡貴
後半30分17鶴見聡貴
後半31分30岡野雅行
前半36分23福島洋

勝つしかない!

 勝つしかないガイナーレ鳥取は序盤から攻め立てた。2トップを組んだ岡野雅行とハメドは自らのキープ力の高さを存分に生かして右サイドを深くえぐり、V・ファーレン長崎の守備陣をかく乱させる。惜しいクロスを上げるシーンがあれば、最悪でもCKを得るなど十分な役割を果たしていた。しかし中で合わせるべき選手が乏しく、V・ファーレン長崎の強固な守備の前に先制点は遠のく一方だった。押し気味の展開に最大限の声援と拍手を送っていたスタンドも徐々に息をひそめるようになってくる。

ここからJリーグ-ガイナーレ鳥取vsV・ファーレン長崎

V・ファーレン長崎が得意のカウンターで先制

 ガイナーレ鳥取が攻めあぐねている一方でアウェーのV・ファーレン長崎が徐々に落ち着きを取り戻す。ガイナーレ鳥取のプレスが弱くなると見るや後方で丁寧にボールを回してガイナーレ鳥取を十分に引き付けた。V・ファーレン長崎ガイナーレ鳥取の最終ラインが高くなったのを見計らってはサイドの深い位置にボールを送り込んでは得意のカウンターを仕掛けていった。

 先に攻撃が実ったのはV・ファーレン長崎だった。V・ファーレン長崎ガイナーレ鳥取のCKをしのぐと、すぐに左サイドに走りこんでいた有光亮太にボールを配給する。勢いをそのままに敵陣深くまで進入した有光亮太はためらうことなく素早いクロスを中に送り込み、中に詰めていた福島洋が難なくゴールに叩き込んだ。一瞬の出来事だった。V・ファーレン長崎は自身の真骨頂とも言える鋭いカウンターで先制ゴールを挙げた。

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 1点が遠い状況で突きつけられた1失点。スタンドの多くはこの現実を受け入れるのが容易ではなかったらしく、リアクションを取れぬまま何事もなかったかのように試合再開を迎えることになった。前半はV・ファーレン長崎がリードしたまま折り返した。

後半の反撃はミドルシュートから

 後半もガイナーレ鳥取が優勢に進めた。すでに逃げ切り体制に入っていたV・ファーレン長崎はしっかりと引いて守りを固め、前半と同様にカウンターを狙う。右から左からとバリエーションを変えながら、攻めても攻めても跳ね返されるガイナーレ鳥取の攻撃はスタンドの焦りを促進させる。もう このまま攻めきれないのか。冷たい風に交じって焦れっとした空気が停滞する。

 転機となったのは後半16分。左サイドから放たれたクロスは一度跳ね返されるも、このルーズボールを拾った実信が右サイド後方からミドルシュートを放つ。抑えの利いたこのシュートはGKに正面で処理されてしまったが、少なくともこれが号砲となってガイナーレ鳥取の得点意欲を、見守るファンの声援をかきたてた。

ここからJリーグ-ガイナーレ鳥取vsV・ファーレン長崎
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ガイナーレが鶴見のヘッドで同点

 そして待望の時を迎える。後半26分に迎えた最初のそれはカウンターのチャンスだった。右サイドでボールを保持した岡野雅行は前進しながら中央の上がりを待つと絶妙なタイミングでゴール前にクロスを配給する。右サイドを突破した勢いをそのままにスピードに乗ったクロスはゴール前にぽっかりと空いたスペースへ突き進む。このクロスに合わせたのは鶴見聡貴。鶴見聡貴は相手のマークにあうことなく頭でゴールに流し込んで待望の同点ゴールとした。V・ファーレン長崎のお株を奪う素早いカウンターで先制したガイナーレ鳥取がこのまま勢いに乗る。

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 ガイナーレ鳥取が変化を起こしたのは時をさかのぼって後半19分のことだった。ガイナーレ鳥取は冨山達行に換えて小井手翔太を投入すると、気がつけばそれまで右サイドに構えていたハメドが左サイドに移動していた。なるほど、後で気がついたのだがボールが集まっていた岡野雅行とハメドを分散させたことでV・ファーレン長崎は既に混乱を起こしていたらしい。ここからはそのハメドがこの試合で最高に存在感を見せ付けることとなる。

ハメド無双から一気に逆転

 同点にされたV・ファーレン長崎が焦らないわけがなかった。そして不意に攻守のバランスを崩してしまったのが運の尽きとなる。左サイドで自由を得たハメドはその規格外のキープ力で左サイドを好き放題にドリブル突破してみせた。同点の勢いが残った後半30分、そのハメドは左サイドを突破するとPA内から強烈なシュートを放つ。このシュートはGKに正面で弾かれてしまったが、次の瞬間にはゴールに叩き込まれていた。スコアラーはまたしても鶴見聡貴。まるでこうなることを分かっていたかのようにゴール前へ詰めていた鶴見聡貴はボールをゴールに叩き込むとそのままユニフォームを脱いで、駆け寄ってきた控えの選手の下へと向かった。歓喜が渦巻くスタジアム。座り込んでいた観客はそのまま浮いてしまうのではないかと思うぐらいに高らかと拳を突き上げて、総立ちで待望の瞬間を受け入れた。

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ガイナーレの駄目押しは野人の一発

 JFLで今季最高得点を記録しているチームがここで終わるはずがない。終わらないのがガイナーレ鳥取の最大の魅力である。逆転からわずか1分後の後半31分に伝説の男が試合を決定付ける得点を決める。契機はまたしてもハメドっだった。左サイドでボールを受けたハメドは1分前と同じように左サイドをドリブルで突破すると、守備陣とGKを十分に引き付けてから中央へマイナス方向へのクロスを送る。このクロスに足元で合わせて入れた3点目は移籍後初ゴールでもあった。ガイナーレ鳥取は岡野雅行の得点でスコアを3?1とし、一瞬のうちにV・ファーレン長崎を突き放した。

ここからJリーグ-ガイナーレ鳥取vsV・ファーレン長崎
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閉幕へ・・

 3?1といえば悪夢となった前節を思い出してもいいものだが、勝利を目前にしたガイナーレ鳥取にそんな余裕はなかった。ガイナーレ鳥取は逆転の勢いを押し殺すように守備へと転じるとV・ファーレン長崎の反撃を難なく跳ね除ける。持ち前の爆発力を見せたガイナーレ鳥取が最終節を勝利で飾った。・・ただし、歓喜の瞬間は本当に瞬間だった。センターサークルでの挨拶を終えた勝者はその面影もなく沈黙を保ち、敗者となったV・ファーレン長崎の選手たちは遠くから訪れたサポーターの元に歩み寄ると深々と頭を下げた。表情の作り方が分からないまま刻々と時が流れる。無いものを無いと表現するのはどうすればよいのだろうか。気がつけば私の記憶には、あくまでも陽気に歌う長崎サポーターの「明日があるさ」しか刻み込まれていなかった。

ここからJリーグ-ガイナーレ鳥取vsV・ファーレン長崎
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J2に残された席は残り「3」

 ガイナーレ鳥取は今年の昇格を逃したことで来年は懸念しなくてはいけないことがある。来年のJ2が19チームになることで、自動昇格として残された枠は残り3つとなってしまったことだ。来期はFC町田ゼルビアV・ファーレン長崎に加えてTDK SCブラウブリッツ秋田としていきなり準加盟を果たすことも考えられる。また、地域リーグからは松本山雅FCツエーゲン金沢が昇格の可能性を残しているため、ライバルは更に増える可能性がある。つまり来年の昇格争いはさらに厳しくなるというのが一点。加えて忘れてはいけないのはJ2に22チームが揃った翌年にはJ2からJFLへの自動降格制度が始まってしまう点だ。念願のJリーグ昇格を果たしたところでそのチームが1年でJFLに降格することも十分に考えうる。

 少し事情は異なるが、私はヴェルディのサポーターとして2度のJ2降格を間近で見てきた。降格というのは非常に悲惨だ。チームは完全に崩壊し、ファンの多くはスタジアムに足を運ばなくなる。確かに降格から得るものはいくつかあったが、失ったものの方が遥かに多い。私が見たものは一例に過ぎないが、おそらくJ2降格がきっかけで飛躍したのは10年間で浦和レッズ(1999年)とサンフレッチェ広島(2007年)ぐらいだろう。それぐらい「降格」に伴う負の力は大きい。

 では、JFL降格はどれほどの作用があるのか。誰か的確な予想が出来る人はいるだろうか。プロリーグ間の入れ替えとは異なってJFL降格、つまりアマチュアリーグ降格による負の作用は計り知れないはずだ。

 これまでJ2昇格を果たしてきたチームはだいたい桁外れの戦力補強を施して単年プランで上がっている。たとえばJFLを1年で駆け上がったFC岐阜がそうだ。「Jリーグ」というブランドを武器に付けることで、上がってからチームの基盤を作った顕著な例がFC岐阜になる。FC岐阜はJリーグ昇格後もなかなか収入が安定せず昨年の末には15人の選手を戦力外にしている。幸いにも2年目にして下位グループからは脱出しているものの、チームの作りかえを余儀なくされている。

 同じく昨年は柱谷幸一監督をはじめJリーグの実績がある選手を多く集めて昇格を果たした栃木SCも今年はすでに16人の選手の解雇を発表している。もし、今年のレギュレーションにJFL降格があり、栃木SCがそれに該当してしまったらと思うと非常におぞましい。

 そこで必要になってくるのが昇格後のJ2に5年は在籍できる総合的なチーム力となる。総合的なチーム力とはアバウトだが、たとえば安定した観客動員や、ぶれることのない選手層などがそれに該当する。つまり、来年からはFC岐阜栃木SCのような単年計画で昇格を目指すのは非常に危ないと言いたい。

ガイナーレ鳥取は転換期へ

 ここでようやくガイナーレ鳥取の話に戻る。ガイナーレ鳥取は何が何でも今年で昇格するつもりだった。つまり単年(短期)計画だ。シーズン前にはJ2ベガルタ仙台からシュナイダー潤之介やJ2徳島ヴォルティスから阿部祐大郎といった軸となる即戦力を獲得し、シーズン中にもジェフリザーブズから奥山泰裕、香港から岡野雅行、J1サンフレッチェ広島から橋内優也と核になるポジションへ即戦力を補強をし続けた。昨年から続いた流れではあるが、来年も再来年も即戦力を補強し続けていくのだろうか。スポンサーを見てもそこまで財力があるようには見えない。運良く戦力を維持してJリーグに昇格しても、FC岐阜栃木SCのような事態になるのは予想がつきやすい。

 ガイナーレ鳥取には大きな選択が迫られている。あくまでも今までどおりの単年勝負で昇格を目指して早期崩壊のリスクを負うか、長期プランに切り替えてすぐに昇格できなくても鳥取県に深く根ざした太いチーム作りをするか。最初の焦点はヴィタヤ監督の去就となる。ヴィタヤはおそらく短期でチームをまとめることは出来ても長期的なチーム作りが出来ない。それをふまえたうえでガイナーレ鳥取が来年の監督に誰を選ぶのか。私が経営者だったら前述の後者を選ぶ。

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